サブウェイ

昼間のサークルの後、ご飯が山盛りで盛られてくる定食屋に入ったせいで人の分まで昼飯を食う羽目になり、エネルギー過多になったので消費のために渋谷-乃木坂間を徒歩で往復した帰り道のことである。

なお乃木坂に行ったのは、好きな漫画の原画が国立新美術館で展示されていたので見に行ったからであり、某アイドルグループとはなんの関係もない。オタはオタでもドルオタではない。

渋谷駅付近にたどり着いたとき、外国人のお兄さんに話しかけられた。

"Subway?"

「へ?」

"(滑らかな英語)"

ほーん、どうやらサブウェイに行きたいようである。

確かに夜の7時過ぎ、腹も減るタイミングである。

まあいくらリスニング能力に欠けているとはいえ、ここで「あいきゃんとすぴーくいんぐりーっしゅ」って言って逃げてしまったら東大生のメンツに関わる。日本の社会的に見たら英語強者やぞ、という謎のマウントと共に案内を引き受けた。

「あいるていくゆー…ざぷれいす。」

軽く話を聞けば鎌倉から渋谷に来て、このあと原宿に行く予定らしい。それ以上は何も言ってこなかったのでこちらとしても助かった。

地図に従って最も近いサブウェイまで歩く、およそ300メートル。なかなか着かない。

"So far!"

「じゃすたみにっと…もぁわんはんどれっとみらー」

んでもってやっと着いた…と思ったら閉まってんじゃね電気ついてねぇぞ⁈

と慌てていたらお兄さんは"No, no, no!"

ん?

"I wanna go to metro!"

ハッとした。

お兄さんが行きたかったのは"Subway(店名)"じゃなくて、"Subway(地下鉄)"だったのである!

そういやさっき原宿行きたいって言ってたよな…そういうことだったのか…

その後お兄さんに謝り倒し、来た道を戻り、JR線の改札まで行き、切符が140円であることを伝えた。別れ際にもう一度謝ったが、お兄さんは"OK、OK"と笑い飛ばしてくれて、日本語で「ありがとう」と言って改札をくぐった。

今回の出来事、何重もの先入観が被さっている。

まず、日本人にとって"Subway"とは「地下鉄」ではなく「サンドイッチ屋さん」である。これは非常に大きな先入観である。

そして夜七時という晩飯タイムだから飯屋に行くのだろう、という先入観。さらに原宿に行くのは普通JR線を使うから、「地下鉄」というワードで脳内変換されづらい。

こういったいくつもの思い込み、先入観によって、ゴタゴタが起こってしまうのである。

まあお互いヒマな大学生と旅行者だったので、ちょっと苦笑いなくらいでたいした問題はなかった。しかし観光客が山ほど来る2020東京オリンピック、無理やり導入される大量のボランティアがこういった先入観によるヘマをしないと言い切れますか?

まあ今回はそんな思い込みによる行き違いが生んだ笑い話。きっとお兄さんは旅行が終わったら友達にむかってこの事を伝えるだろう。「地下鉄行きたいって日本人に言ったんだよ。そしたらサブウェイに連れていかれてよ!まったく参ったぜ!HAHAHA」なんてアメリカンジョークにしてくれるに違いない。

っていうアメリカ人はジョークを話すという先入観。