キョーイク

教育臨床心理学の授業で、エゴグラムというものをやった。

心理テストみたいな質問に答えると、5つの項目の数値が出てくるのである。

精神分析理論で考えると、こんな五項目らしい。(前田基成先生の講義資料を参考にしています。)

CP:世の中生きてくために必要な倫理観とか責任感、あと道徳的な心とか。

NP:他者への思いやり、同情とかの心。面倒見とかにつながる。

A:理性、知性に近い。冷静で客観的、現実的な判断を下す。

FC:極めて子供っぽい。快楽主義で苦痛を避ける。自己中だが好奇心旺盛で創造的。

AC:自分を抑えて他人に合わせようとする。やり過ぎ注意。

 

んでもってこれの得点をグラフにする。数字がデカイほどその性格も強い。つまりグラフで上に出っ張ってるとこが主な性格である。

…ここで僕のエゴグラムのグラフを見てください。

 

f:id:suekichi-fealiers-2718:20180506024759j:plain

 

…なんですかこのCPとFC。

CPゼロって。おい。FCもほぼ満点だし。

たしかに「拘束嫌い、努力嫌い、責任嫌い」の三拍子揃ってますけども。だからってこんなあからさまになるもんです?

 

さて、突然ですが僕はバイトをしています。登録制のバイトで、イベントの設営とか撤去とかやるやつ。柱とか絨毯とか広げたり片付けたり、トラックから荷物の積み下ろししたり。要するに力仕事である。

周りのみんなは大学の性格もあるので、塾講、個別指導、家庭教師、ってのが多いし、実際そっちの方が時給が高い。二倍三倍のレベルで違う。ぶっちゃけそっちの方が「向いている」とは思うのだが、力仕事をしているのには理由がある。

まず、「拘束が薄い」点。塾講とかだと○曜日は必ず授業、みたいな感じで時間の使い方が縛られてしまう。それよりだったら暇なときにバイトのシフトを組めるようにした方が楽だ。
次に「努力が不要」な点。生徒のために教材を作ったり、授業の予習をする必要はない。せいぜい汚れてもいい服装をして軍手を持っていくくらいでいい。
そして「責任が少ない」点。生徒に勉強を教えるということは、生徒の成績や受験に対して責任を持たなければならないことを意味する。ダルイ。それに比べてイベントの設営ならちょっとしたミスならなんとかなるし、新人の下っ端なので大したことは任されない。ここでは有名大学の出かどうかなんて関係ないし頭をフル回転させる必要もないので気が楽である。もっとも、前回のバイトで「力無いんだから頭くらい使えよ」と注意はされたが。
 
要するに先ほどの三拍子揃った僕には非常に「性に合っている」仕事なのである。向いてないけど。
 
話は変わるがこの仕事、いろんな人が働いていて面白い。この前は35のオッサンと始発前の朝焼け間際の東京湾沿いを歩きながら、好きなご飯や将来についてのとりとめのない話をして始発駅まで向かう、という非常にエモい体験をした。なおオッサンの見た目は26くらいなのでびっくりした。マリオと逆やん。
しかし今回はそのオッサンではなく、前回のバイトでたまたま一緒に仕事した外国人のおっさんの話をしようと思う。
 
集合時間に駅に着くと、男女に混ざってそこそこ屈強な黒人男性がいた。東京に来てだいぶ見慣れた存在ではあるものの、やはりインパクトがデカイ。ドレッドヘアーだし。
仕事中何回か共同でものを運んだが、「ユックリネ」「ダイジョーブ?」と片言っぽい日本語で話しかけてきた。こちらも「ダイジョーブ…っす」と最低限の敬語を用いて返した。
この日は夜勤で朝5時に終わる予定だった…のだが、なぜが23:40くらいに終わってしまった。意味わからん。終電ギリギリ、というか住む場所によっては電車が間に合わない時間である。幸い僕は京王井の頭線ユーザーなので、渋谷までたどり着けばなんとかなる。皆が「えー間に合わねえ」「どこいこう」と言う中「お疲れ様でーす」とサクッと帰ろうとしたところ、リーダーに「どこ行くん?」と聞かれたので、「渋谷っす」と言って立ち去ろうとした。すると先ほどの外国人が「私も渋谷」と言ってきたので、なんか途中まで一緒に帰ることになった。
 
話してみると、彼は日本語が思ったより上手かった。ヒゲでほうれい線が隠れていたため若く見えたらしく実は意外と年を取っていて、日本にもそこそこ長く住んでいるようである。フランスの大学で言語学を専攻したあと、あちこちを旅したり定住したりしながら暮らしているらしい。
「僕海外に行ったことないんですよ…」
「えっ、それは勿体ないよ、あちこち行っていろんなものを見るといいよ、それでいろんなことを学ぶ、キョーイクだよ」
彼曰く、アジア系は文化に似たところがあるから、ヨーロッパに行って思い切り違う文化を感じるのがおススメらしい。不思議と、そういう話を聞いてくると興味が湧いて、ヨーロッパに行ってみたくなる。エゴグラム曰く、好奇心が強い属性なもんで。
 
ダラダラと話していると終電寸前の時間である。交差点の信号が青になった瞬間、おっさんと僕は2人して駆け出した。「あと何分ある?」「えーと、4分あります、ギリギリいけますね!」
駅を目前にして、残り1分。おっさんは少し息が切れてきた。「あと少しっす!」「OK!」
しかし非情にも改札は僕のSuicaをやすやすと通してはくれなかった。
「残高が不足しています」
「ああっ!あなたは行って!僕を置いて行ってください、達者で!」おっさんに手を振りSuicaをチャージしに行く僕。おっさんはちらと僕を見て改札を通り、ホームへ駆け下りた。
Suicaをチャージしてホームに降りると、終電時刻を過ぎたにもかかわらず電車は来ておらず、おっさんが待っていた。奇跡的に2分ほど電車が遅延していたのだ。
おっさんと僕は感動の再会を果たした。
「ちょっとした冒険だね」「こんな冒険もうしたくないですね」とJR線の電車の中で2人して笑った。
 
途中で山手線に乗り換える時、さっきの話の続きをした。
「大学生活でいろんなことしてますね」
「それはいいことです。せっかくなんだから勉強でも遊びでもなんでも、やりたいことガンガンやりなさい。社会に出たらね…ね?」としれっと恐ろしいこと言ってきた。
「それでたくさん経験を積んで、キョーイクを持って、いろんなことに責任を持てるようになりなさい。そういう責任持てる男になるといいよ」
おっさんの言う「キョーイク」を、僕は「教養」という言葉に変換して捉えたけれど、もしかしたらもっと深い意味があるのかもしれない。ウィキペディア先生曰く、「ある人間を望ましい状態にさせるために、心と体の両面に、意図的に働きかけること」だそうだ。なんにせよ働きかけがないと人は変わらない。変化のない人生は面白くない。自分で自分を教育するっての、大事なことかもしれない。
 
仕事したりダッシュしたりで疲れて会話も減ったけれど、山手線の電車内でおっさんが教えてくれた英語のことわざがある。しかし疲れた脳みそは英語をしっかりとは認識してくれなかったので、日本語バージョンだけメモしておこう。
「一度選択したら、それを選択する必要はない。一度選択したら、その選択をする準備をする必要はない。ただその選択したものを楽しんで、んでもっていろんなことやっときな」そんな感じだった気がする。世界を旅したり、日本に住んだり、イベントのバイトしてみたり。きっと自分の選んだ選択に責任を持てているから言える台詞なんだろう。
責任嫌いな僕が、少しだけ、責任持つのも悪くない、と思った。
おっさんとは井の頭線の乗り場で別れた。また会う機会があるだろうか。
 
 
英語バージョンも言い回しがカッコよかったんだけど、英語のリスニングが苦手なのは相変わらずで、とりあえずそこは自分でもキョーイクしなくちゃいけない気がしている。