デート紛い(前編)
クラスメイトが深夜テンションではてなブログを開設していた。読んだ。
…面白いじゃねえか。普通に面白い。さすが関西出身の限界エンターティナーである。そのブログの読者になろうと思ってはてなブログにログインしようとしたが、IDをド忘れしたのでGmailを確認したところ、「そろそろ次の投稿をしてみませんか?」というメールが来ていた。…2ヶ月前だが。
要はブログにするほど面白い話が無かったのである。友人の付き添いで救急車に乗った話とか、女の子と仲良くなったと思ってたけどこっちが勘違いしていただけな話とかはあるが、どちらも笑い話ではないし、まだ時効でもない。書くとしてもそのうちである。
でもせっかくだしなんか書きたい。とりあえずクラスメイトのブログの読者になったことだし、一年たったからもう時効になった昔話でもしよう。
事の発端は2017年の1月、センター試験初日である。
朝起きると、寝癖が酷かった。まあセンター試験で出会いなんぞある筈もないので、そのまま放置してとっとと朝飯を食らい、荷物の最終チェックをする。そして分厚いダウンジャケットを羽織る。
雪の降る日本海側気候の北国であり、父親も仕事があったため朝早くタクシーで試験会場である市内の大学に向かった。幸い、渋滞は酷くなかった。過保護で心配性な母親とも別れ、一人で案内に書いてあった建物へ入った。
「あっ、おはよー!」
…甲高い声で挨拶してきたのは同級生のLだ。1年の時から同じクラスの女子で、隣の席に座っているのでよく話す。色々な意味で口を閉じていれば可愛い奴だ。
Lは廊下のソファに座っていた。
「おはよう」
普通に挨拶を返すが、Lの隣には見慣れない女の子が座って一緒に勉強している。
「あっ、M、こいつがいつも言ってる頭いい奴!東大行くんだよ東大!」
「えっ東大⁈」
LはMと呼ばれた女の子を引き連れてきた。
時々、Lが親友だと言ってMの話をすることがあったので、名前は知っていた。Mはよその高校の制服を着ていて少し長い髪をしていて、…整った顔をしていた。
寝癖直してくればよかったな。
そう思ってももう遅い。これからセンター試験を受ける受験生諸君は、最低限の身だしなみを整えてから試験会場へ向かうことをお勧めする。
「はじめまして、Mです。東大行くんですか?凄いですね!」
「あ、どうも、Tです。第一志望にしてて…」
話をしてみると、どうやら彼女は既に推薦で私大に受かっているらしい。センターは一応受けろ、とのことで。2分ほどその場で立ち話をしたが、最後の別れ際にMが言った。
「それじゃ、頑張ってください!」
炎が燃え上がった。体内の精神的な温度というのだろうか、そういうのが急上昇した。アドレナリンかなんか出た。
「はい!頑張る!」
笑顔で手を振って別れを告げたが、この興奮は冷めやらぬ。人生で一番やる気スイッチが入った出来事である。そのテンションのまま日本史Bを解ききり、ほかの科目も「頑張ってください」を思い出してテンションを爆上げして乗り気った。
そもそも会場が違ったらしく、時間のない2日目は会えなかったものの、前日の「頑張ってください」でやはりテンション爆上げで乗り気った。
その日の夜は不安だったものの、次の日の学校での自己採点で校史に残る超絶予想外の高得点を記録したと判明し、嬉しさのあまり、落胆する同級生の目の前で気持ち悪い舞を踊ったりしたものである。
とりあえずセンター試験で高得点を取りたければ可愛い子に応援されましょう。
…ここまで書くとラノベやらなろう系やらの主人公かなんかみたいであるが、ほぼ全て史実である。今のクラスメイトから「名誉男子高生」と言われたり、サークル同期から「灘のやつと開成の奴より男子校男子校してる」と言われたりするが、れっきとした共学公立高校出身なのである。たまにはイキらせろ。俺だって高校まではチートだったんや。
さて、時は3月くらいまで流れる。
「あの娘可愛かったよな〜」と思い返したりしながら生活していたので、思い立ってLに「Mの連絡先を教えてください」と頼んだのである。この頃の積極性を取り戻したい。
結果、OKが出た。すっごーい!
といっても直接会わないことにはどうしようもないので、東京で会うことにした。予定調整の結果、4月半ばなら地元を出るし留学前だし…でちょうどよかったので3人で飯を食うことになったのである。
新宿駅集合。
人生初デート、できる限りのお洒落をしてきたが、緊張で脇汗がすごいのでトイレにこもって摩擦熱で汗のシミを乾かすなどして待っていた。「サイゼ以外ならどこでもいい」とのことだったので全力で食べログをサーチしていたら、「胃に優しいもの」とオーダーが入ったので全ラーメン店を却下した結果、とあるスープ屋が残った。新宿駅から歩いて15分くらいで、悪くない。胃にも優しそうだ。行ってみようと誘ったらOKが出た。我ながら順調である。
しかし、この時はまだあんな事になるなんて予想もしなかった…
(後編へ続く)