ピアニカくらいしか弾けないけどボカロ曲作った話
結論から言うと、これ見てくれ。
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http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33913755
2018年9月11日。
夏休みが終わるまで2週間を切った頃、ふと思いついた。
「ボカロ曲作りてえな」
まず前提になる状況がいくつかある。
1.我が大学には「ボーカロイド音楽論」なる講義が存在する。マジで。
2.あくまで既存のボカロ曲などを人文科学的、社会科学的に考察していく授業であり、作曲論とかはやらない。
3.しかし講師はボカロPであり学生に創作活動をバンバン勧めてくる。よって講義を受けた学生には作曲メイツが沢山いる。
4.その講師はTwitterを高頻度で用いる。
5.ボーカロイド音楽論を昨年秋学期に受講した。なお夏学期もたまに潜っていた。
6.春休みに唐突にノリで無料のmidi作曲ソフトをインストールした。
7.講師にRTされ、うっかり「ボカロ曲作るかもっすねえ」などと発言してしまう。
8.言質を取られる。
という感じでそのうちボカロ曲作るかー、と思っていたのだが、「じゃいつやるの?今でしょ!」と脳内の林修が夏休み後半に前触れも無く言ってきたのだから仕方がない。作るしかない。
さてどうしたものか。
作りたい曲が無いわけではない、むしろある。自分で言うのもアレだが「歌詞」と「主旋律」はアイデアが割とホイホイ湧いて来てくれるのである。特に感情が強く揺さぶられた時とか。高校時代に失恋した時の歌とか黒歴史だけどちゃんとしたとこに投げれば印税で稼げる説がある。嘘です。
最近何に感動が揺さぶられたかっつったらアレよアレ、某監督降板騒動。
アレで軽く闇落ちしかけて「やはり人類は愚かなり滅ぶべし」とか思ってたら詞が浮かぶ浮かぶ。小ネタとかいっぱい詰め込んで良い感じに詞になってたのがスマホのメモ帳に眠っていたのである。
音楽経験のない普通の詩人なら、ここで作曲のできる人に「こういう詞があるんだが曲付けてくださいお願いします」とかってやるのかもしれない。
しかし米津玄師の「長い前髪で前が見えねえ」を目指している身としては、作詞作曲MV全て自分でやりたくなってしまうのである。莫迦である。ちなみに、前髪によって右目が若干隠れるレベルで髪が伸びている。アルパカ・スリみがある。
そして更に「せっかく降板騒動の歌を作るんなら、9/25の20:00ちょうどに投稿しようじゃねえの*1」と莫迦な事を考え始めてしまった。2週間も無い。ついでに炎上させる気マンマンである。改めてただの莫迦やん。あるいはセルリアン。
2018年9月12日
この日は夕勤でバイトがあったが、少し早く終わったので電気屋に寄って此奴を買った。
ミク様が我が家にやって来たのである。これで晴れてボカロPデビューである。なおTwitterで呟いたところ例の講師にも当然RTされた。
導入の仕方は同封の紙に全部書いてあるので親切。フリーソフトとは大違い。お金払うのって違うわ。なおこの日は導入と設定だけで終わってしまった。とりあえず三味線の音色が気に入ったので採用。
9月13日
日付が変わってから数時間コードと格闘した。Am#とC#とF#とG#をうまく行ったり来たりさせることが決定する。一旦寝て起きてからは別件で出かけて疲れたので何もしない。2週間無いのに。
9月14日
ベースの扱いがよくわからないけどノリで頑張った。とりあえずルート音にしときゃいいんだな⁈ということでAm#とC#とF#とG#のドレミ表を参考にぽちぽち打ち込む。監督脚本費未払い問題という新しい爆弾が投下され、溢れた負のエネルギーにより加速…と言いたいけどTwitterに張り付いてたので進捗は普通。ちなみにドレミ表はスーパーのレシートの裏である。
9/15〜9/18 ちまちま作ったりサボったりして1番が完成する。2番は基本的に1番の焼き直しなので楽だった。あとV4Xバージョン有能過ぎるので、ミク無調整で乗り切ることを決意。今回の歌は下手にいじるよか機械的な方がいいかな、と。
9/19 ノートパソコンのスペックに不安があるので、1番Aメロ、1番Bメロ、……みたいな感じで分けて作ってたのをくっつける作業をしようとしたんだが、出力する時にクリッピング(音割れ?)しまくって死ぬ。ギターやら三味線やらの音量を低くしたらなんとかなったが、その時のせいで1番Bメロの音量が小さいのは内緒。アレは演出だ演出。2番後の間奏に手をつける。
9/20 日付が変わってから本気を出し、間奏、大サビも完成させる。
つまり曲完成である。やったぜ。疲れた。
しかし、ベッドに横になってからが本領発揮である。
イラストを描かねばならぬ。MVだMV。あと5日間で4分間の曲のMVを描くのだ。しんど。誰だ9/25に完成させるって言って莫迦は。
前奏でスラム街的な風景を描きたくて、イメージはあったので小一時間で描いた。ガバガバ線画でいいやと割り切ったので早い。
そして次のカットで大きなミスを犯す。
「手書き文字」でタイトルロゴを描いてしまったのである。
エセ明朝体。
一旦こうしてしまったからには、全て統一しなければなるまい。
ええ、「絵」も「文字」も描かないと駄目になりました。しんどい。絵を描くのに40分くらい、文字差分それぞれに10分くらい、みたいな感じを繰り返した。
とりあえず1番Aメロまで終わらす。
9月21日 1番Bメロだけやる。
9月22日 朝に1番サビ前半だけやる。なお昼は同人誌即売会、夜はサークルの発表会と飲み会。
9月23日 昼はまた同人誌即売会。夜は進捗の危機を感じたので2番Aメロまで進めるけど間に合う気がしない。
9月24日 夏休み最終日。夕方4時半から作業開始。本気出したら9時には2番サビまで終わり、希望が見えて来たので「全部描くまで寝れま10」を強行することを決意。
もう絵を描くのもだるいのでレタリングもクソもない文字だけパートになってしまった間奏。でも嫌いじゃない。
最後のサビ部分のイラストもこのイヌ科青年が叫ぶ絵しか使ってない。もうエネルギー使い果たしたというか、1番サビで画力解放しすぎた。
9月25日 ちょうどこのイヌ科くんコピペしてるあたりで日付が変わる。あとは既存の絵をいじるだけなので割と楽だったものの全部終わったのは1時半。たぶん途中でゲームしてたんだと思う。
あとは有能動画編集ソフトaviutl君に頑張ってもらうのみ。音源のwavファイルが読み込めないピンチもあったが、audacityでmp3ファイルに書き換えたらいけたので強行突破。なお音量がクソでかかったのでがっつり下げた。
ibis paintで描いた絵は透過pngもあるのでまとめてGoogleドライブへ押し込み、パソコンでカチカチとダウンロード。圧縮しろや。
aviutl側でBPMを設定しグリッド線を表示させ、タイミング良く配置してハイ完成。ってのが4時過ぎ。割と時間かかった。あとは夜8時に投稿するだけである。
夜7時半。サークルをサボって、チンしたぬるい麻婆豆腐を食っていたのだが緊張のせいか食欲が湧かないし頭が熱い。熱測ったら微熱があったのでこれはサボりではなく有意義な欠席である。
タグとかキャプションとかを設定する。なんとかが六割かんとかが六割って最もらしいこと言ってるけど実はアレ後付け。勘のいいフレンズはなぜ「三割六分」なのか気づいてくれるだろうか。わかった方には先着一名で駄菓子をおごります。
有意義な欠席を有効活用し7時57分からニコニコ動画の投稿用ページに待機、そして20:00ちょうどに投稿ボタンをクリック、アップロードに50秒くらいかかってヒヤヒヤしたものの、無事に20:00投稿となった。
あとは見守るのみ。
念のためTwitterに鍵をかけた。
体調悪いので早く寝よう
…としたが気になって眠れん、何回再生だ?何回再生だ?
64回
…寝るか
9月26日 100再生は超えたが「音量が小さい」というご指摘以外には特に何もなく。
これは大丈夫そうだなと思いTwitterの鍵を外し。
そろそろ宣伝しようかということでこの文章を書き。
T Daisukeがボカロ曲を作ることに期待してくださった皆様に、そしてボカロ好きの皆様とけもフレ好きの皆様に一言。
こんな内容の歌にミクさんを使ってしまって申し訳ありませんでした!!!
こんな内容の歌をわざわざ9月25日に投稿してしまって申し訳ありませんでした!!!
フレンズを名乗ってすみません!!!
でも作りたかったんですこういう歌が!!!
こういう皮肉なことがしたかった!!!
許してください!何で(ry
10代最後の一人旅(後編)
10代最後の一人旅(前編)
10代最後に一人旅したいな、と前々から思っていたが、地元に帰省する前に行くしかないなと思い立ったのはほんの昨日のことである。
サブウェイ
昼間のサークルの後、ご飯が山盛りで盛られてくる定食屋に入ったせいで人の分まで昼飯を食う羽目になり、エネルギー過多になったので消費のために渋谷-乃木坂間を徒歩で往復した帰り道のことである。
なお乃木坂に行ったのは、好きな漫画の原画が国立新美術館で展示されていたので見に行ったからであり、某アイドルグループとはなんの関係もない。オタはオタでもドルオタではない。
渋谷駅付近にたどり着いたとき、外国人のお兄さんに話しかけられた。
"Subway?"
「へ?」
"(滑らかな英語)"
ほーん、どうやらサブウェイに行きたいようである。
確かに夜の7時過ぎ、腹も減るタイミングである。
まあいくらリスニング能力に欠けているとはいえ、ここで「あいきゃんとすぴーくいんぐりーっしゅ」って言って逃げてしまったら東大生のメンツに関わる。日本の社会的に見たら英語強者やぞ、という謎のマウントと共に案内を引き受けた。
「あいるていくゆー…ざぷれいす。」
軽く話を聞けば鎌倉から渋谷に来て、このあと原宿に行く予定らしい。それ以上は何も言ってこなかったのでこちらとしても助かった。
地図に従って最も近いサブウェイまで歩く、およそ300メートル。なかなか着かない。
"So far!"
「じゃすたみにっと…もぁわんはんどれっとみらー」
んでもってやっと着いた…と思ったら閉まってんじゃね電気ついてねぇぞ⁈
と慌てていたらお兄さんは"No, no, no!"
ん?
"I wanna go to metro!"
ハッとした。
お兄さんが行きたかったのは"Subway(店名)"じゃなくて、"Subway(地下鉄)"だったのである!
そういやさっき原宿行きたいって言ってたよな…そういうことだったのか…
その後お兄さんに謝り倒し、来た道を戻り、JR線の改札まで行き、切符が140円であることを伝えた。別れ際にもう一度謝ったが、お兄さんは"OK、OK"と笑い飛ばしてくれて、日本語で「ありがとう」と言って改札をくぐった。
今回の出来事、何重もの先入観が被さっている。
まず、日本人にとって"Subway"とは「地下鉄」ではなく「サンドイッチ屋さん」である。これは非常に大きな先入観である。
そして夜七時という晩飯タイムだから飯屋に行くのだろう、という先入観。さらに原宿に行くのは普通JR線を使うから、「地下鉄」というワードで脳内変換されづらい。
こういったいくつもの思い込み、先入観によって、ゴタゴタが起こってしまうのである。
まあお互いヒマな大学生と旅行者だったので、ちょっと苦笑いなくらいでたいした問題はなかった。しかし観光客が山ほど来る2020東京オリンピック、無理やり導入される大量のボランティアがこういった先入観によるヘマをしないと言い切れますか?
まあ今回はそんな思い込みによる行き違いが生んだ笑い話。きっとお兄さんは旅行が終わったら友達にむかってこの事を伝えるだろう。「地下鉄行きたいって日本人に言ったんだよ。そしたらサブウェイに連れていかれてよ!まったく参ったぜ!HAHAHA」なんてアメリカンジョークにしてくれるに違いない。
キョーイク
教育臨床心理学の授業で、エゴグラムというものをやった。
心理テストみたいな質問に答えると、5つの項目の数値が出てくるのである。
精神分析理論で考えると、こんな五項目らしい。(前田基成先生の講義資料を参考にしています。)
CP:世の中生きてくために必要な倫理観とか責任感、あと道徳的な心とか。
NP:他者への思いやり、同情とかの心。面倒見とかにつながる。
A:理性、知性に近い。冷静で客観的、現実的な判断を下す。
FC:極めて子供っぽい。快楽主義で苦痛を避ける。自己中だが好奇心旺盛で創造的。
AC:自分を抑えて他人に合わせようとする。やり過ぎ注意。
んでもってこれの得点をグラフにする。数字がデカイほどその性格も強い。つまりグラフで上に出っ張ってるとこが主な性格である。
…ここで僕のエゴグラムのグラフを見てください。
…なんですかこのCPとFC。
CPゼロって。おい。FCもほぼ満点だし。
たしかに「拘束嫌い、努力嫌い、責任嫌い」の三拍子揃ってますけども。だからってこんなあからさまになるもんです?
さて、突然ですが僕はバイトをしています。登録制のバイトで、イベントの設営とか撤去とかやるやつ。柱とか絨毯とか広げたり片付けたり、トラックから荷物の積み下ろししたり。要するに力仕事である。
周りのみんなは大学の性格もあるので、塾講、個別指導、家庭教師、ってのが多いし、実際そっちの方が時給が高い。二倍三倍のレベルで違う。ぶっちゃけそっちの方が「向いている」とは思うのだが、力仕事をしているのには理由がある。
デート紛い(後編)
前編のあらすじ(適当)
センター試験会場で偶然出会った美少女Mに恋をしたT。3ヶ月後、Tの元同級生であり、Mの親友でもあるLに頼んで新宿でデート(?)することになったのであった…
女二人での服のショッピングに男はいらない、というわけで二時間程駅周辺で待たされる羽目になってしまったが、なんやかんやで合流することになった。
が、ここは新宿駅である。乗降者数世界ナンバーワンの駅である。JR、京王、小田急をはじめとする有名な鉄道会社らが創り上げた都内最高難易度ダンジョンである。
迷った。
「あいつらはどこにいるんだ…」
東口っつったって広いのである。周りの風景を説明してもらうなどして、数分後にようやく合流した。これで第一印象マイナス3くらいであろう。リカバーしよう。
3人とも田舎の地方都市から出てきた身分ということもあり、東京はやべぇなという世間話をダラダラとしながら、東新宿の方にあるスープ系の料理を専門としている店へと向かった。地図曰く最短ルートで徒歩15分くらいであり、ダベりつつ歩くには丁度いい…はずだった。
それはTOHOシネマズの前を通って歌舞伎町を横切ったときのことである。
「HOTEL○○」
「HOTEL△△」
「☆☆ホテル」
新宿をふらふら歩いたことのある、もしくは意図的に利用したことのある人間ならばお気づきだろう。
私は女の子2人を連れてラブホ街にたどり着いてしまったのである。
一瞬、空気が凍った気がした。
やっちまったぜ。
こういうとき、どうするのが得策か?
「あーごめん…所謂ホテル…街突っ切っちまうわこのルート…ごめん…」
「うわめっちゃホテルあるwwwww写真撮ろwwwww」「撮ろうwww」
思ったよりノリノリである。女の子2人でよかった…1人だったら死んでた…でも多分内心少し引いてるだろこれ…印象マイナス150とかだ…とひとり脳内で泣いた。
いいですか皆さん。彼女のいない僕でもできる唯一のアドバイスです。
デートするときは予め下見をしておきましょう。
その後無事にスープ屋にたどり着き3人でテーブルを囲んで話をしたが、基本的には大学生活の話がメインのガールズトークに相槌を打つことが多かった。どうやらLとMも久し振りに会ったらしく、話したいことがたくさんあったようだった。まあ聞いてて面白かったからいいとしよう。肝心のMとは良い感じに会話できてはいないような気もするが気にしたら負けである。
その後帰る途中でMがスマホを店に忘れてきたことに気づいて、ヒールではなくスニーカーの僕が率先して閉店後の店まで走って取りに行くなどして好印象を与えようとした(これはマジで惚れてまうやろ、すんませんそんなことないですね)。しかし所詮は「良い人」止まりだったような気がする。
こちらもLINEを入手したくらいしか成果は無かった。まあ十分デカイか。
新宿駅で別れ、自分にしてはよくやった方だ、と思いながら家に帰った。帰り道みんなで店に寄って買ったドーナツを一人で食べた。なんとなくまたみんなで何か食べることはないような気がした。
その後はMに対して、ゴールデンウィークに水族館デートに誘ってみたり、文化祭である五月祭に来るように言ってみたりしたが、「Lが焼き餅焼いちゃうよ〜」などとようわからんことを言われてのらりくらりと躱されていた。一度3人でご飯を食べたので、いざ2人きりというのはなかなかハードルが高くなってしまったようだ。
だがこちらは恋愛不慣れの童貞である。恐れる事など何も無い。こういうときは押して押して押しまくるものだとクラスのリア充は言うので参考にしつつ、7月、ついに勝負に出た。手練れの私文女子大生と頭脳派理系男子大学生の戦いの幕が切って落とされた。
「一緒に隅田川花火大会見に行きませんか?」
既読スルーされてそろそろ10ヶ月経つ。
デート紛い(前編)
クラスメイトが深夜テンションではてなブログを開設していた。読んだ。
…面白いじゃねえか。普通に面白い。さすが関西出身の限界エンターティナーである。そのブログの読者になろうと思ってはてなブログにログインしようとしたが、IDをド忘れしたのでGmailを確認したところ、「そろそろ次の投稿をしてみませんか?」というメールが来ていた。…2ヶ月前だが。
要はブログにするほど面白い話が無かったのである。友人の付き添いで救急車に乗った話とか、女の子と仲良くなったと思ってたけどこっちが勘違いしていただけな話とかはあるが、どちらも笑い話ではないし、まだ時効でもない。書くとしてもそのうちである。
でもせっかくだしなんか書きたい。とりあえずクラスメイトのブログの読者になったことだし、一年たったからもう時効になった昔話でもしよう。
事の発端は2017年の1月、センター試験初日である。
朝起きると、寝癖が酷かった。まあセンター試験で出会いなんぞある筈もないので、そのまま放置してとっとと朝飯を食らい、荷物の最終チェックをする。そして分厚いダウンジャケットを羽織る。
雪の降る日本海側気候の北国であり、父親も仕事があったため朝早くタクシーで試験会場である市内の大学に向かった。幸い、渋滞は酷くなかった。過保護で心配性な母親とも別れ、一人で案内に書いてあった建物へ入った。
「あっ、おはよー!」
…甲高い声で挨拶してきたのは同級生のLだ。1年の時から同じクラスの女子で、隣の席に座っているのでよく話す。色々な意味で口を閉じていれば可愛い奴だ。
Lは廊下のソファに座っていた。
「おはよう」
普通に挨拶を返すが、Lの隣には見慣れない女の子が座って一緒に勉強している。
「あっ、M、こいつがいつも言ってる頭いい奴!東大行くんだよ東大!」
「えっ東大⁈」
LはMと呼ばれた女の子を引き連れてきた。
時々、Lが親友だと言ってMの話をすることがあったので、名前は知っていた。Mはよその高校の制服を着ていて少し長い髪をしていて、…整った顔をしていた。
寝癖直してくればよかったな。
そう思ってももう遅い。これからセンター試験を受ける受験生諸君は、最低限の身だしなみを整えてから試験会場へ向かうことをお勧めする。
「はじめまして、Mです。東大行くんですか?凄いですね!」
「あ、どうも、Tです。第一志望にしてて…」
話をしてみると、どうやら彼女は既に推薦で私大に受かっているらしい。センターは一応受けろ、とのことで。2分ほどその場で立ち話をしたが、最後の別れ際にMが言った。
「それじゃ、頑張ってください!」
炎が燃え上がった。体内の精神的な温度というのだろうか、そういうのが急上昇した。アドレナリンかなんか出た。
「はい!頑張る!」
笑顔で手を振って別れを告げたが、この興奮は冷めやらぬ。人生で一番やる気スイッチが入った出来事である。そのテンションのまま日本史Bを解ききり、ほかの科目も「頑張ってください」を思い出してテンションを爆上げして乗り気った。
そもそも会場が違ったらしく、時間のない2日目は会えなかったものの、前日の「頑張ってください」でやはりテンション爆上げで乗り気った。
その日の夜は不安だったものの、次の日の学校での自己採点で校史に残る超絶予想外の高得点を記録したと判明し、嬉しさのあまり、落胆する同級生の目の前で気持ち悪い舞を踊ったりしたものである。
とりあえずセンター試験で高得点を取りたければ可愛い子に応援されましょう。
…ここまで書くとラノベやらなろう系やらの主人公かなんかみたいであるが、ほぼ全て史実である。今のクラスメイトから「名誉男子高生」と言われたり、サークル同期から「灘のやつと開成の奴より男子校男子校してる」と言われたりするが、れっきとした共学公立高校出身なのである。たまにはイキらせろ。俺だって高校まではチートだったんや。
さて、時は3月くらいまで流れる。
「あの娘可愛かったよな〜」と思い返したりしながら生活していたので、思い立ってLに「Mの連絡先を教えてください」と頼んだのである。この頃の積極性を取り戻したい。
結果、OKが出た。すっごーい!
といっても直接会わないことにはどうしようもないので、東京で会うことにした。予定調整の結果、4月半ばなら地元を出るし留学前だし…でちょうどよかったので3人で飯を食うことになったのである。
新宿駅集合。
人生初デート、できる限りのお洒落をしてきたが、緊張で脇汗がすごいのでトイレにこもって摩擦熱で汗のシミを乾かすなどして待っていた。「サイゼ以外ならどこでもいい」とのことだったので全力で食べログをサーチしていたら、「胃に優しいもの」とオーダーが入ったので全ラーメン店を却下した結果、とあるスープ屋が残った。新宿駅から歩いて15分くらいで、悪くない。胃にも優しそうだ。行ってみようと誘ったらOKが出た。我ながら順調である。
しかし、この時はまだあんな事になるなんて予想もしなかった…
(後編へ続く)