ピアニカくらいしか弾けないけどボカロ曲作った話

結論から言うと、これ見てくれ。

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33913755

 

2018年9月11日。

夏休みが終わるまで2週間を切った頃、ふと思いついた。

 

「ボカロ曲作りてえな」

 

 

まず前提になる状況がいくつかある。

1.我が大学には「ボーカロイド音楽論」なる講義が存在する。マジで。

2.あくまで既存のボカロ曲などを人文科学的、社会科学的に考察していく授業であり、作曲論とかはやらない。

3.しかし講師はボカロPであり学生に創作活動をバンバン勧めてくる。よって講義を受けた学生には作曲メイツが沢山いる。

4.その講師はTwitterを高頻度で用いる。

5.ボーカロイド音楽論を昨年秋学期に受講した。なお夏学期もたまに潜っていた。

6.春休みに唐突にノリで無料のmidi作曲ソフトをインストールした。

7.講師にRTされ、うっかり「ボカロ曲作るかもっすねえ」などと発言してしまう。

8.言質を取られる。

 

という感じでそのうちボカロ曲作るかー、と思っていたのだが、「じゃいつやるの?今でしょ!」と脳内の林修が夏休み後半に前触れも無く言ってきたのだから仕方がない。作るしかない。

 

さてどうしたものか。

作りたい曲が無いわけではない、むしろある。自分で言うのもアレだが「歌詞」と「主旋律」はアイデアが割とホイホイ湧いて来てくれるのである。特に感情が強く揺さぶられた時とか。高校時代に失恋した時の歌とか黒歴史だけどちゃんとしたとこに投げれば印税で稼げる説がある。嘘です。

最近何に感動が揺さぶられたかっつったらアレよアレ、某監督降板騒動。

アレで軽く闇落ちしかけて「やはり人類は愚かなり滅ぶべし」とか思ってたら詞が浮かぶ浮かぶ。小ネタとかいっぱい詰め込んで良い感じに詞になってたのがスマホのメモ帳に眠っていたのである。

 

楽経験のない普通の詩人なら、ここで作曲のできる人に「こういう詞があるんだが曲付けてくださいお願いします」とかってやるのかもしれない。

しかし米津玄師の「長い前髪で前が見えねえ」を目指している身としては、作詞作曲MV全て自分でやりたくなってしまうのである。莫迦である。ちなみに、前髪によって右目が若干隠れるレベルで髪が伸びている。アルパカ・スリみがある。

そして更に「せっかく降板騒動の歌を作るんなら、9/25の20:00ちょうどに投稿しようじゃねえの*1」と莫迦な事を考え始めてしまった。2週間も無い。ついでに炎上させる気マンマンである。改めてただの莫迦やん。あるいはセルリアン。

2018年9月12日

この日は夕勤でバイトがあったが、少し早く終わったので電気屋に寄って此奴を買った。

 

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ミク様が我が家にやって来たのである。これで晴れてボカロPデビューである。なおTwitterで呟いたところ例の講師にも当然RTされた。

導入の仕方は同封の紙に全部書いてあるので親切。フリーソフトとは大違い。お金払うのって違うわ。なおこの日は導入と設定だけで終わってしまった。とりあえず三味線の音色が気に入ったので採用。

 

9月13日

日付が変わってから数時間コードと格闘した。Am#とC#とF#とG#をうまく行ったり来たりさせることが決定する。一旦寝て起きてからは別件で出かけて疲れたので何もしない。2週間無いのに。

 

9月14日

ベースの扱いがよくわからないけどノリで頑張った。とりあえずルート音にしときゃいいんだな⁈ということでAm#とC#とF#とG#のドレミ表を参考にぽちぽち打ち込む。監督脚本費未払い問題という新しい爆弾が投下され、溢れた負のエネルギーにより加速…と言いたいけどTwitterに張り付いてたので進捗は普通。ちなみにドレミ表はスーパーのレシートの裏である。

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9/15〜9/18 ちまちま作ったりサボったりして1番が完成する。2番は基本的に1番の焼き直しなので楽だった。あとV4Xバージョン有能過ぎるので、ミク無調整で乗り切ることを決意。今回の歌は下手にいじるよか機械的な方がいいかな、と。

 

9/19 ノートパソコンのスペックに不安があるので、1番Aメロ、1番Bメロ、……みたいな感じで分けて作ってたのをくっつける作業をしようとしたんだが、出力する時にクリッピング(音割れ?)しまくって死ぬ。ギターやら三味線やらの音量を低くしたらなんとかなったが、その時のせいで1番Bメロの音量が小さいのは内緒。アレは演出だ演出。2番後の間奏に手をつける。

 

9/20 日付が変わってから本気を出し、間奏、大サビも完成させる。

つまり曲完成である。やったぜ。疲れた。

 

しかし、ベッドに横になってからが本領発揮である。

イラストを描かねばならぬ。MVだMV。あと5日間で4分間の曲のMVを描くのだ。しんど。誰だ9/25に完成させるって言って莫迦は。

前奏でスラム街的な風景を描きたくて、イメージはあったので小一時間で描いた。ガバガバ線画でいいやと割り切ったので早い。

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そして次のカットで大きなミスを犯す。

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「手書き文字」でタイトルロゴを描いてしまったのである。

エセ明朝体

一旦こうしてしまったからには、全て統一しなければなるまい。

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ええ、「絵」も「文字」も描かないと駄目になりました。しんどい。絵を描くのに40分くらい、文字差分それぞれに10分くらい、みたいな感じを繰り返した。

とりあえず1番Aメロまで終わらす。

 

9月21日 1番Bメロだけやる。

9月22日 朝に1番サビ前半だけやる。なお昼は同人誌即売会、夜はサークルの発表会と飲み会。

9月23日 昼はまた同人誌即売会。夜は進捗の危機を感じたので2番Aメロまで進めるけど間に合う気がしない。

9月24日 夏休み最終日。夕方4時半から作業開始。本気出したら9時には2番サビまで終わり、希望が見えて来たので「全部描くまで寝れま10」を強行することを決意。

もう絵を描くのもだるいのでレタリングもクソもない文字だけパートになってしまった間奏。でも嫌いじゃない。

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最後のサビ部分のイラストもこのイヌ科青年が叫ぶ絵しか使ってない。もうエネルギー使い果たしたというか、1番サビで画力解放しすぎた。

 

9月25日 ちょうどこのイヌ科くんコピペしてるあたりで日付が変わる。あとは既存の絵をいじるだけなので割と楽だったものの全部終わったのは1時半。たぶん途中でゲームしてたんだと思う。

あとは有能動画編集ソフトaviutl君に頑張ってもらうのみ。音源のwavファイルが読み込めないピンチもあったが、audacityでmp3ファイルに書き換えたらいけたので強行突破。なお音量がクソでかかったのでがっつり下げた。

ibis paintで描いた絵は透過pngもあるのでまとめてGoogleドライブへ押し込み、パソコンでカチカチとダウンロード。圧縮しろや。

aviutl側でBPMを設定しグリッド線を表示させ、タイミング良く配置してハイ完成。ってのが4時過ぎ。割と時間かかった。あとは夜8時に投稿するだけである。

 

夜7時半。サークルをサボって、チンしたぬるい麻婆豆腐を食っていたのだが緊張のせいか食欲が湧かないし頭が熱い。熱測ったら微熱があったのでこれはサボりではなく有意義な欠席である。

タグとかキャプションとかを設定する。なんとかが六割かんとかが六割って最もらしいこと言ってるけど実はアレ後付け。勘のいいフレンズはなぜ「三割六分」なのか気づいてくれるだろうか。わかった方には先着一名で駄菓子をおごります。

有意義な欠席を有効活用し7時57分からニコニコ動画の投稿用ページに待機、そして20:00ちょうどに投稿ボタンをクリック、アップロードに50秒くらいかかってヒヤヒヤしたものの、無事に20:00投稿となった。

 

あとは見守るのみ。

念のためTwitterに鍵をかけた。

体調悪いので早く寝よう

 

…としたが気になって眠れん、何回再生だ?何回再生だ?

 

64回

 

…寝るか

 

9月26日 100再生は超えたが「音量が小さい」というご指摘以外には特に何もなく。

これは大丈夫そうだなと思いTwitterの鍵を外し。

そろそろ宣伝しようかということでこの文章を書き。

T Daisukeがボカロ曲を作ることに期待してくださった皆様に、そしてボカロ好きの皆様とけもフレ好きの皆様に一言。

 

こんな内容の歌にミクさんを使ってしまって申し訳ありませんでした!!!

こんな内容の歌をわざわざ9月25日に投稿してしまって申し訳ありませんでした!!!

フレンズを名乗ってすみません!!!

でも作りたかったんですこういう歌が!!!

こういう皮肉なことがしたかった!!!

言い訳に過ぎませんがけもフレ初音ミクも大好きです!!!

許してください!何で(ry

*1:9/25の20:00に某監督がザックリ某方面からのお達しで某アニメから降板することになった旨のツイートをし、界隈が荒れに荒れた。9.25事件、第四次けもフレショックとも呼ばれる。

10代最後の一人旅(後編)

 

朝7時のアラームで目が覚めたが眠いので8時まで二度寝した。さっさと身支度を済ませホテルをチェックアウトし、前々から行く予定であった日本平動物園へ向かう。
私が無類のけものフレンズ好きであることは私をよく知る人間にとっては周知の事実であろう。受験期の極度のストレスによって刻み付けられたその癒し効果は今も健在なのである。ちょうど日本平動物園とコラボしているというので、期間内に行きたいと思っていたのである。むしろこのための一人旅といっても過言ではない。
静岡駅から最寄駅の草薙駅まで電車に乗り、バスがよくわからなかったので歩いて行くことにした。幸い曇り空の28℃といったところで、昨日の34℃と比べれば屁でもない。私は意気揚々と人気のない道を歩き始めた。15分ほどしてから私は汗だくになって自分の決断を後悔するが。
iPhoneのマップ曰く徒歩50分であったが、若さゆえの健脚によって、40分もしないうちに動物園の目の前まで着いた。しかしどこが入り口なのかてんで分らぬ。マップに従って歩くと「歩行者立入禁止」の看板が見え、先を覗いてみると駐車場の入口しか見えず、仕方なく反対方向へ向かおうとしたら「自動車道路につき歩行者進入不可」とのことである。このiPhone、持ち主が車に轢かれて死のうが構わないらしい。大変腹立たしい。
脇に細い遊歩道があったのでうねうねと歩いたらどうにか入口に着いた。ちょうど出発から50分である。自動車道路でウロウロしていた分を加算して帳尻を合わせるあたり、持ち主に反して嫌味な性格を持ったiPhoneである。
さて入場券を購入し、けもフレのスタンプラリー用紙を購入して園内を回る。見物の内容をくどくどと書き並べてもつまらないので部分的に述べる。見知らぬ女性にお願いして「ヒト」の檻に入った私の写真を撮って貰ったり、ジャガーの模様がアニメで言っていた通りであることに感激したり、後ろにいるカップルに羨望の眼差しを送ったり、思った以上に活発に動き回るナマケモノに驚いたり、暗い室内を駆け回るフェネックに癒されたりなどした。
スタンプを全て揃え景品を貰い、けもフレのコラボパネルも全て写真に収めたので、満足して動物園を出た。命の危険を感じたので帰りはちゃんとバスに乗った。
東静岡で上手くも不味くもないラーメンをすすってから、乗り換えも兼ねて1日ぶりの沼津である。サークルの先輩に静岡名物を尋ねたところ「のっぽパン」なるものが美味しいというので買ってみようと思ったのである。そこで駅から10分ほどのイトーヨーカドーに行ったがセブンプレミアムがあるばかりで売っていない。近くのドラッグストアにも売っていない。まさか偽情報を摑まされたのではあるまいかと疑い始めた矢先のミニストップに売っていた。ありがたく購入し明日の朝飯にすることを決意する。
今度は御殿場線に乗って静岡出身のサークルの友達がよく言う「御殿場アウトレット」なる場所に行ってみた。電車のドアが自動ドアではなくボタンを押す種類のものだったので、御殿場駅の手前からドアの前に陣取ってボタンに手をかけまだかまだかと待っていたのだが、ホーム側は向かいの扉であった。
アウトレットまでの無料バスに飛び乗って御殿場アウトレットの地に降り立って2分で気がついたことがある。オシャレと無縁の貧乏男子大学生が女の子の1人も連れずにふらりとやって来るような場所ではない、ということである。アイツとアイツがデートするのにうってつけだな、とお門違いなお節介を思い浮かべつつ人の隙間をくぐって歩く。流石に何もせずに帰るのも勿体無いので、GODIVAのショコリキサーなる甘い飲み物を飲んだ。程よい甘みに、ビターチョコがアクセントになって実に美味かった。
しかしチョコを食らうと喉が乾く。持ち歩いていたポカリスエットは一口しか残っておらず、ぐいと飲み込むとかえって甘さで喉が焼けた。水か茶が無いとまずい、と思って自販機を見るが当然のごとく全て売り切れである。しばらく歩いて別の自販機を見つけたが130円で緑茶の小さいボトルしか売っていない。独占商売による暴利的な価格であるが、喉の不快感を紛らす為に仕方なく買った。
まだ喉が痛む。昨日のホテルの室温が19℃ゆえ寒くて布団を被って寝たら逆に寝汗をかき過ぎたことや、エアコンの利いた電車に乗るのに長袖の上着を持ってくるのを忘れたことにより、体調を崩したのであろうと予想した。こうなればとっとと帰るしかないので、再びバスに乗って駅へ戻る。
駅の売店で水とサークル用の土産を購入した。なお、親に旅行のことを話すと「このクソ暑い時期に旅行するなど愚の骨頂、熱中症になったらどうするのだこの阿呆」などと説教されるのは目に見えているので連絡しておらず、必然的に土産も買わない。親不孝な息子で申し訳ない。あとはもう帰るだけなのだが、いささか熱っぽくもなってきた。確かにこのクソ暑い時期に旅行するのは愚の骨頂であった。
電車内でゲームなどしては残り少ない充電が死ぬので読みかけの森見登美彦を読んだが、国府津湘南新宿ラインに乗り換えるよりも前に読み終わってしまった。この長ったらしくて若干硬く、冴えない男の哀愁を薄らと感じさせる一人称「私」の文体は、ほとんど四畳半神話体系の影響である。なぜか部分的に太宰もある。することがなくなったので10代最後の旅の想い出をiPhoneのメモでだらだらと書き連ねている。あとはコピペしてブログに載せて、小説の広告でも載せればおしまいである。
まあなんだかんだ楽しかった。行き当たりばったりの旅は身体への負担を代償とするものの、精神に非常に良い。18きっぷは残っているので、帰省が終わったら20代最初の一人旅に出るとしよう。今度は片割れがいてもいいだろう。できれば明石さんのような麗しの乙女。
…熱のせいか、理性が角砂糖のようにぼろぼろと崩れているらしい。帰りに薬局で葛根湯でも買って飲んで寝よう。
四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

 

10代最後の一人旅(前編)

10代最後に一人旅したいな、と前々から思っていたが、地元に帰省する前に行くしかないなと思い立ったのはほんの昨日のことである。

早起きして渋谷で18きっぷを購入して大船で乗り換え、居眠りしながら東海道本線に乗っている最中、急にトイレに行きたくなって車内のトイレに入ったところ、悲しいかなトイレットペーパーがきれていた。五分ほど耐えればどうせ熱海で乗り換えなので一旦降りてしまおうと思い、熱海駅で御手洗を済ます。
せっかくの18きっぷ乗り放題なので熱海観光をしてみようと駅を出ると目の前に足湯がある。靴下を脱いで入ってみたがかなり温度が高い。しかし少し経てば慣れるもので、これから酷使するであろう足を温めた。
足湯を出て地図を見れば近くに海水浴場があるらしく、水着美女でも拝めるだろうかとやましい気持ちで歩き出した。裏道やら階段やらをくねくねと歩くのだが、夏の強い日差しは曇り空をいとも容易く貫通して頭をジリジリと焼くので汗が止まらない。いざ到着すると殆どがちびっ子を連れた親子連れであった。ビーチサッカーをする陽キャな男達はいたが、若い女性はかなり少ない。大抵は湘南にいるのだろう。カナヅチ男が一人で海水浴をするのもおかしな話であるしそもそも危険なので、軽く見物しただけで駅に戻ることにした。
流石に熱海に来て足湯だけというのも悲しいので、商店街で温泉まんじゅうを買って食べた。暑さで疲れた身体にこしあんの甘味がよく染みた。
さて、汗でぐしゃぐしゃになったシャツを着替えたら再び電車で移動である。しかし森見登美彦の四畳半神話体系を読んでいたら三島での乗り換えをうっかり失念してしまったので、34℃の炎天下、沼津の寂れた商店街アーケードをふらふらと歩く羽目になった。少しばかり腹が減ったとはいえ、それ以上に暑いので、ラーメンだの中華料理だのを食ってまた汗をかくというのも気が乗らない。当てもなく彷徨っていると向こうにかき氷の暖簾が見える。ああいう店なら何か昼飯も食えるのではないか、と思って近づいて店の前でメニューを眺めていると、中から店主のおばさんが「いらっしゃいませ」などと言ってくるものだからその店に入らざるを得なくなった。
やけに家庭的なその店、本業は喫茶店らしく軽食は炒飯とスパゲティの二択しかないらしいので炒飯を注文した。暑いので他に客もおらず、高校野球の地区予選を見て暇を潰していたらしく、久し振りの若い客に喜んでいるようだった。顔を拭けと言って冷たいおしぼりを寄越してきたのでありがたく汗を拭う。何やら冷蔵庫から取り出したあと電子レンジの操作音が聴こえてくるので、これは本格炒飯は望めないなと諦めつつ扇子をあおいで涼んでいると、サービスで柴漬けをくれた。塩分補給にうってつけである。さて届いたのはうちの冷凍庫にも見覚えのあるエビピラフ、柴漬けとの相性も抜群でメーカー保証の当然のおいしさである。
エビピラフを頬張りながら止まらないおばさんの話に相槌を打つ。やれこの暑さじゃあ出かける人もありゃしないから客は来ない、土日の夏祭りなら客は来るだろうが40年も住んでりゃ花火の音が煩くて仕方ない、それにしてもこの暑さじゃ年寄りはエアコンケチって死にかけるから大変だ、私の知り合いの婆さんは床屋の夫婦に預かってもらってたらちょっと客が入って忙しくなった間に死んじゃったから商売屋に預けるのはよくない、ところでそのスマホ?っての、"グルグル"で調べたらなんでも出てくるんだろ、前にテレビの取材を受けた時のことがそっくりそのまま書いてあるらしくて驚きだ、住所も電話番号がわかればどこでも行けるって凄い時代だなあ、私は機械音痴だからガラケーで充分、とこんな風にまあ話が止まらない。
ひと段落ついたところで沼津のオススメの場所を尋ねたら深海水族館なるものがあるというので行ってみることにした。紙製の団扇を一つ譲ってもらい、帰り際に相田みつをの詩で「たった一度の出逢いが云々」というのを紹介されて、一期一会ってのは実際その通りだなと思った。炒飯代は100円まけてくれた。
バスに乗ればいいとおばさんに言われたので駅前のバス停に向かい、どれが水族館行きなのかと調べている最中にお目当てのバスの扉が閉まって出発してしまった。炎天下で30分待たされるのはまっぴら御免なので駅の2階のベンチで時間を潰した。どうも今日は乗り換えの運が無い。
時間になったのでバスに乗って沼津港で降り、道に迷った末に沼津深海水族館に辿り着いた。受付で券を買ってウニやらヌタウナギやらチンアナゴやらなかなかお目にかかれない水生生物を眺めていた。ヒカリキンメダイの発光によるプラネタリウムに入った時に先客でカップルがおり、自分も隣に誰か女の子がいればいいなと思ったが、前の日に思い立って突然静岡に旅行に来るような輩に付き合ってくれる程フットワークの軽い女友達を私は持っていない。
私の非リア事情はおいといて、シーラカンスの剥製やら魚拓やらを眺めて改めてそのデカさに感嘆した。現在では絶滅寸前であるため商業目的の国際取引が禁止されているらしい。シーラカンスが釣れるどうぶつの森はいったい何なんだ。最後に記念スタンプを押すところがあったので、細長い紙片に押して二つ折りにし、四畳半神話体系に栞がわりに挟んでおいた。
そういえば先刻通り過ぎた土産屋で面白いTシャツを売っているのを見かけたなと思い出してその土産屋へ行った。アディダスを文字った鯵のTシャツである。変なTシャツ好きとして見過ごすわけにはいかないので買ってしまった。店仕舞いも近かったようで、「最後だから」と冷たい茶をサービスしてくれた。熱中症にならないでね、と微笑む店の人の優しさに心打たれた。沼津の人柄は基本的に温かいもの、という刷り込まれてしまった。
コンビニの休憩スペースで一息ついたあと、静岡市周辺ならいくらでもネカフェで泊まれるだろうと思って移動したが、思った以上に身体が疲れていることに気づき、このまま座って寝るなどしたら体調を崩しかねないと思ったのでビジネスホテルを予約することにした。一泊4000円、明後日に夜勤バイトが入っていることを考えると安いものである。
さて静岡出身の友人にオススメされたので炭焼きさわやかにハンバーグを食べにきた。40分ほど待たされたが、ジュシーで弾力のあるげんこつハンバーグは待ち時間に値するだけの価値があったと思う。オニオンソースとの相性も抜群であった。熱々なので口の中を火傷した。
飯を食い本屋で時間を潰し、ホテルへとやってきた。個室ではなく仕切りがあるだけのキャビンルームではあるが、広さや機能性は十分である。シャワールームやトイレも清潔であった。ただし電波が非常に悪い。これには辟易した。
明日は朝早くから動物園に行く予定なので、とっとと寝ることにする。おやすみなさい。

サブウェイ

昼間のサークルの後、ご飯が山盛りで盛られてくる定食屋に入ったせいで人の分まで昼飯を食う羽目になり、エネルギー過多になったので消費のために渋谷-乃木坂間を徒歩で往復した帰り道のことである。

なお乃木坂に行ったのは、好きな漫画の原画が国立新美術館で展示されていたので見に行ったからであり、某アイドルグループとはなんの関係もない。オタはオタでもドルオタではない。

渋谷駅付近にたどり着いたとき、外国人のお兄さんに話しかけられた。

"Subway?"

「へ?」

"(滑らかな英語)"

ほーん、どうやらサブウェイに行きたいようである。

確かに夜の7時過ぎ、腹も減るタイミングである。

まあいくらリスニング能力に欠けているとはいえ、ここで「あいきゃんとすぴーくいんぐりーっしゅ」って言って逃げてしまったら東大生のメンツに関わる。日本の社会的に見たら英語強者やぞ、という謎のマウントと共に案内を引き受けた。

「あいるていくゆー…ざぷれいす。」

軽く話を聞けば鎌倉から渋谷に来て、このあと原宿に行く予定らしい。それ以上は何も言ってこなかったのでこちらとしても助かった。

地図に従って最も近いサブウェイまで歩く、およそ300メートル。なかなか着かない。

"So far!"

「じゃすたみにっと…もぁわんはんどれっとみらー」

んでもってやっと着いた…と思ったら閉まってんじゃね電気ついてねぇぞ⁈

と慌てていたらお兄さんは"No, no, no!"

ん?

"I wanna go to metro!"

ハッとした。

お兄さんが行きたかったのは"Subway(店名)"じゃなくて、"Subway(地下鉄)"だったのである!

そういやさっき原宿行きたいって言ってたよな…そういうことだったのか…

その後お兄さんに謝り倒し、来た道を戻り、JR線の改札まで行き、切符が140円であることを伝えた。別れ際にもう一度謝ったが、お兄さんは"OK、OK"と笑い飛ばしてくれて、日本語で「ありがとう」と言って改札をくぐった。

今回の出来事、何重もの先入観が被さっている。

まず、日本人にとって"Subway"とは「地下鉄」ではなく「サンドイッチ屋さん」である。これは非常に大きな先入観である。

そして夜七時という晩飯タイムだから飯屋に行くのだろう、という先入観。さらに原宿に行くのは普通JR線を使うから、「地下鉄」というワードで脳内変換されづらい。

こういったいくつもの思い込み、先入観によって、ゴタゴタが起こってしまうのである。

まあお互いヒマな大学生と旅行者だったので、ちょっと苦笑いなくらいでたいした問題はなかった。しかし観光客が山ほど来る2020東京オリンピック、無理やり導入される大量のボランティアがこういった先入観によるヘマをしないと言い切れますか?

まあ今回はそんな思い込みによる行き違いが生んだ笑い話。きっとお兄さんは旅行が終わったら友達にむかってこの事を伝えるだろう。「地下鉄行きたいって日本人に言ったんだよ。そしたらサブウェイに連れていかれてよ!まったく参ったぜ!HAHAHA」なんてアメリカンジョークにしてくれるに違いない。

っていうアメリカ人はジョークを話すという先入観。

キョーイク

教育臨床心理学の授業で、エゴグラムというものをやった。

心理テストみたいな質問に答えると、5つの項目の数値が出てくるのである。

精神分析理論で考えると、こんな五項目らしい。(前田基成先生の講義資料を参考にしています。)

CP:世の中生きてくために必要な倫理観とか責任感、あと道徳的な心とか。

NP:他者への思いやり、同情とかの心。面倒見とかにつながる。

A:理性、知性に近い。冷静で客観的、現実的な判断を下す。

FC:極めて子供っぽい。快楽主義で苦痛を避ける。自己中だが好奇心旺盛で創造的。

AC:自分を抑えて他人に合わせようとする。やり過ぎ注意。

 

んでもってこれの得点をグラフにする。数字がデカイほどその性格も強い。つまりグラフで上に出っ張ってるとこが主な性格である。

…ここで僕のエゴグラムのグラフを見てください。

 

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…なんですかこのCPとFC。

CPゼロって。おい。FCもほぼ満点だし。

たしかに「拘束嫌い、努力嫌い、責任嫌い」の三拍子揃ってますけども。だからってこんなあからさまになるもんです?

 

さて、突然ですが僕はバイトをしています。登録制のバイトで、イベントの設営とか撤去とかやるやつ。柱とか絨毯とか広げたり片付けたり、トラックから荷物の積み下ろししたり。要するに力仕事である。

周りのみんなは大学の性格もあるので、塾講、個別指導、家庭教師、ってのが多いし、実際そっちの方が時給が高い。二倍三倍のレベルで違う。ぶっちゃけそっちの方が「向いている」とは思うのだが、力仕事をしているのには理由がある。

まず、「拘束が薄い」点。塾講とかだと○曜日は必ず授業、みたいな感じで時間の使い方が縛られてしまう。それよりだったら暇なときにバイトのシフトを組めるようにした方が楽だ。
次に「努力が不要」な点。生徒のために教材を作ったり、授業の予習をする必要はない。せいぜい汚れてもいい服装をして軍手を持っていくくらいでいい。
そして「責任が少ない」点。生徒に勉強を教えるということは、生徒の成績や受験に対して責任を持たなければならないことを意味する。ダルイ。それに比べてイベントの設営ならちょっとしたミスならなんとかなるし、新人の下っ端なので大したことは任されない。ここでは有名大学の出かどうかなんて関係ないし頭をフル回転させる必要もないので気が楽である。もっとも、前回のバイトで「力無いんだから頭くらい使えよ」と注意はされたが。
 
要するに先ほどの三拍子揃った僕には非常に「性に合っている」仕事なのである。向いてないけど。
 
話は変わるがこの仕事、いろんな人が働いていて面白い。この前は35のオッサンと始発前の朝焼け間際の東京湾沿いを歩きながら、好きなご飯や将来についてのとりとめのない話をして始発駅まで向かう、という非常にエモい体験をした。なおオッサンの見た目は26くらいなのでびっくりした。マリオと逆やん。
しかし今回はそのオッサンではなく、前回のバイトでたまたま一緒に仕事した外国人のおっさんの話をしようと思う。
 
集合時間に駅に着くと、男女に混ざってそこそこ屈強な黒人男性がいた。東京に来てだいぶ見慣れた存在ではあるものの、やはりインパクトがデカイ。ドレッドヘアーだし。
仕事中何回か共同でものを運んだが、「ユックリネ」「ダイジョーブ?」と片言っぽい日本語で話しかけてきた。こちらも「ダイジョーブ…っす」と最低限の敬語を用いて返した。
この日は夜勤で朝5時に終わる予定だった…のだが、なぜが23:40くらいに終わってしまった。意味わからん。終電ギリギリ、というか住む場所によっては電車が間に合わない時間である。幸い僕は京王井の頭線ユーザーなので、渋谷までたどり着けばなんとかなる。皆が「えー間に合わねえ」「どこいこう」と言う中「お疲れ様でーす」とサクッと帰ろうとしたところ、リーダーに「どこ行くん?」と聞かれたので、「渋谷っす」と言って立ち去ろうとした。すると先ほどの外国人が「私も渋谷」と言ってきたので、なんか途中まで一緒に帰ることになった。
 
話してみると、彼は日本語が思ったより上手かった。ヒゲでほうれい線が隠れていたため若く見えたらしく実は意外と年を取っていて、日本にもそこそこ長く住んでいるようである。フランスの大学で言語学を専攻したあと、あちこちを旅したり定住したりしながら暮らしているらしい。
「僕海外に行ったことないんですよ…」
「えっ、それは勿体ないよ、あちこち行っていろんなものを見るといいよ、それでいろんなことを学ぶ、キョーイクだよ」
彼曰く、アジア系は文化に似たところがあるから、ヨーロッパに行って思い切り違う文化を感じるのがおススメらしい。不思議と、そういう話を聞いてくると興味が湧いて、ヨーロッパに行ってみたくなる。エゴグラム曰く、好奇心が強い属性なもんで。
 
ダラダラと話していると終電寸前の時間である。交差点の信号が青になった瞬間、おっさんと僕は2人して駆け出した。「あと何分ある?」「えーと、4分あります、ギリギリいけますね!」
駅を目前にして、残り1分。おっさんは少し息が切れてきた。「あと少しっす!」「OK!」
しかし非情にも改札は僕のSuicaをやすやすと通してはくれなかった。
「残高が不足しています」
「ああっ!あなたは行って!僕を置いて行ってください、達者で!」おっさんに手を振りSuicaをチャージしに行く僕。おっさんはちらと僕を見て改札を通り、ホームへ駆け下りた。
Suicaをチャージしてホームに降りると、終電時刻を過ぎたにもかかわらず電車は来ておらず、おっさんが待っていた。奇跡的に2分ほど電車が遅延していたのだ。
おっさんと僕は感動の再会を果たした。
「ちょっとした冒険だね」「こんな冒険もうしたくないですね」とJR線の電車の中で2人して笑った。
 
途中で山手線に乗り換える時、さっきの話の続きをした。
「大学生活でいろんなことしてますね」
「それはいいことです。せっかくなんだから勉強でも遊びでもなんでも、やりたいことガンガンやりなさい。社会に出たらね…ね?」としれっと恐ろしいこと言ってきた。
「それでたくさん経験を積んで、キョーイクを持って、いろんなことに責任を持てるようになりなさい。そういう責任持てる男になるといいよ」
おっさんの言う「キョーイク」を、僕は「教養」という言葉に変換して捉えたけれど、もしかしたらもっと深い意味があるのかもしれない。ウィキペディア先生曰く、「ある人間を望ましい状態にさせるために、心と体の両面に、意図的に働きかけること」だそうだ。なんにせよ働きかけがないと人は変わらない。変化のない人生は面白くない。自分で自分を教育するっての、大事なことかもしれない。
 
仕事したりダッシュしたりで疲れて会話も減ったけれど、山手線の電車内でおっさんが教えてくれた英語のことわざがある。しかし疲れた脳みそは英語をしっかりとは認識してくれなかったので、日本語バージョンだけメモしておこう。
「一度選択したら、それを選択する必要はない。一度選択したら、その選択をする準備をする必要はない。ただその選択したものを楽しんで、んでもっていろんなことやっときな」そんな感じだった気がする。世界を旅したり、日本に住んだり、イベントのバイトしてみたり。きっと自分の選んだ選択に責任を持てているから言える台詞なんだろう。
責任嫌いな僕が、少しだけ、責任持つのも悪くない、と思った。
おっさんとは井の頭線の乗り場で別れた。また会う機会があるだろうか。
 
 
英語バージョンも言い回しがカッコよかったんだけど、英語のリスニングが苦手なのは相変わらずで、とりあえずそこは自分でもキョーイクしなくちゃいけない気がしている。

デート紛い(後編)

前編のあらすじ(適当)

センター試験会場で偶然出会った美少女Mに恋をしたT。3ヶ月後、Tの元同級生であり、Mの親友でもあるLに頼んで新宿でデート(?)することになったのであった…

 

 

女二人での服のショッピングに男はいらない、というわけで二時間程駅周辺で待たされる羽目になってしまったが、なんやかんやで合流することになった。

が、ここは新宿駅である。乗降者数世界ナンバーワンの駅である。JR、京王、小田急をはじめとする有名な鉄道会社らが創り上げた都内最高難易度ダンジョンである。

 

迷った。

 

「あいつらはどこにいるんだ…」

 

東口っつったって広いのである。周りの風景を説明してもらうなどして、数分後にようやく合流した。これで第一印象マイナス3くらいであろう。リカバーしよう。

 

3人とも田舎の地方都市から出てきた身分ということもあり、東京はやべぇなという世間話をダラダラとしながら、東新宿の方にあるスープ系の料理を専門としている店へと向かった。地図曰く最短ルートで徒歩15分くらいであり、ダベりつつ歩くには丁度いい…はずだった。

 

それはTOHOシネマズの前を通って歌舞伎町を横切ったときのことである。

 

HOTEL○○」

HOTEL△△」

「☆☆ホテル」

 

新宿をふらふら歩いたことのある、もしくは意図的に利用したことのある人間ならばお気づきだろう。

 

 

私は女の子2人を連れてラブホ街にたどり着いてしまったのである。

 

 

一瞬、空気が凍った気がした。

 

 

やっちまったぜ。

こういうとき、どうするのが得策か?

「あーごめん…所謂ホテル…街突っ切っちまうわこのルート…ごめん…」

「うわめっちゃホテルあるwwwww写真撮ろwwwww」「撮ろうwww」

思ったよりノリノリである。女の子2人でよかった…1人だったら死んでた…でも多分内心少し引いてるだろこれ…印象マイナス150とかだ…とひとり脳内で泣いた。

 

いいですか皆さん。彼女のいない僕でもできる唯一のアドバイスです。

デートするときは予め下見をしておきましょう。

 

その後無事にスープ屋にたどり着き3人でテーブルを囲んで話をしたが、基本的には大学生活の話がメインのガールズトークに相槌を打つことが多かった。どうやらLとMも久し振りに会ったらしく、話したいことがたくさんあったようだった。まあ聞いてて面白かったからいいとしよう。肝心のMとは良い感じに会話できてはいないような気もするが気にしたら負けである。

 

その後帰る途中でMがスマホを店に忘れてきたことに気づいて、ヒールではなくスニーカーの僕が率先して閉店後の店まで走って取りに行くなどして好印象を与えようとした(これはマジで惚れてまうやろ、すんませんそんなことないですね)。しかし所詮は「良い人」止まりだったような気がする。

こちらもLINEを入手したくらいしか成果は無かった。まあ十分デカイか。

 

新宿駅で別れ、自分にしてはよくやった方だ、と思いながら家に帰った。帰り道みんなで店に寄って買ったドーナツを一人で食べた。なんとなくまたみんなで何か食べることはないような気がした。

 

 

その後はMに対して、ゴールデンウィークに水族館デートに誘ってみたり、文化祭である五月祭に来るように言ってみたりしたが、「Lが焼き餅焼いちゃうよ〜」などとようわからんことを言われてのらりくらりと躱されていた。一度3人でご飯を食べたので、いざ2人きりというのはなかなかハードルが高くなってしまったようだ。

 

だがこちらは恋愛不慣れの童貞である。恐れる事など何も無い。こういうときは押して押して押しまくるものだとクラスのリア充は言うので参考にしつつ、7月、ついに勝負に出た。手練れの私文女子大生と頭脳派理系男子大学生の戦いの幕が切って落とされた。

「一緒に隅田川花火大会見に行きませんか?」

 

 

既読スルーされてそろそろ10ヶ月経つ。

デート紛い(前編)

 

クラスメイトが深夜テンションではてなブログを開設していた。読んだ。

 

…面白いじゃねえか。普通に面白い。さすが関西出身の限界エンターティナーである。そのブログの読者になろうと思ってはてなブログにログインしようとしたが、IDをド忘れしたのでGmailを確認したところ、「そろそろ次の投稿をしてみませんか?」というメールが来ていた。…2ヶ月前だが。

 

要はブログにするほど面白い話が無かったのである。友人の付き添いで救急車に乗った話とか、女の子と仲良くなったと思ってたけどこっちが勘違いしていただけな話とかはあるが、どちらも笑い話ではないし、まだ時効でもない。書くとしてもそのうちである。

 

でもせっかくだしなんか書きたい。とりあえずクラスメイトのブログの読者になったことだし、一年たったからもう時効になった昔話でもしよう。

 

 

事の発端は2017年の1月、センター試験初日である。

 

朝起きると、寝癖が酷かった。まあセンター試験で出会いなんぞある筈もないので、そのまま放置してとっとと朝飯を食らい、荷物の最終チェックをする。そして分厚いダウンジャケットを羽織る。

雪の降る日本海側気候の北国であり、父親も仕事があったため朝早くタクシーで試験会場である市内の大学に向かった。幸い、渋滞は酷くなかった。過保護で心配性な母親とも別れ、一人で案内に書いてあった建物へ入った。

「あっ、おはよー!」

…甲高い声で挨拶してきたのは同級生のLだ。1年の時から同じクラスの女子で、隣の席に座っているのでよく話す。色々な意味で口を閉じていれば可愛い奴だ。

Lは廊下のソファに座っていた。

「おはよう」

普通に挨拶を返すが、Lの隣には見慣れない女の子が座って一緒に勉強している。

「あっ、M、こいつがいつも言ってる頭いい奴!東大行くんだよ東大!」

「えっ東大⁈」

LはMと呼ばれた女の子を引き連れてきた。

時々、Lが親友だと言ってMの話をすることがあったので、名前は知っていた。Mはよその高校の制服を着ていて少し長い髪をしていて、…整った顔をしていた。

 

 

寝癖直してくればよかったな。

 

 

そう思ってももう遅い。これからセンター試験を受ける受験生諸君は、最低限の身だしなみを整えてから試験会場へ向かうことをお勧めする。

「はじめまして、Mです。東大行くんですか?凄いですね!」

「あ、どうも、Tです。第一志望にしてて…」

 

話をしてみると、どうやら彼女は既に推薦で私大に受かっているらしい。センターは一応受けろ、とのことで。2分ほどその場で立ち話をしたが、最後の別れ際にMが言った。

「それじゃ、頑張ってください!」

 

 

炎が燃え上がった。体内の精神的な温度というのだろうか、そういうのが急上昇した。アドレナリンかなんか出た。

 

「はい!頑張る!」

 

笑顔で手を振って別れを告げたが、この興奮は冷めやらぬ。人生で一番やる気スイッチが入った出来事である。そのテンションのまま日本史Bを解ききり、ほかの科目も「頑張ってください」を思い出してテンションを爆上げして乗り気った。

そもそも会場が違ったらしく、時間のない2日目は会えなかったものの、前日の「頑張ってください」でやはりテンション爆上げで乗り気った。

 

その日の夜は不安だったものの、次の日の学校での自己採点で校史に残る超絶予想外の高得点を記録したと判明し、嬉しさのあまり、落胆する同級生の目の前で気持ち悪い舞を踊ったりしたものである。

とりあえずセンター試験で高得点を取りたければ可愛い子に応援されましょう。

 

…ここまで書くとラノベやらなろう系やらの主人公かなんかみたいであるが、ほぼ全て史実である。今のクラスメイトから「名誉男子高生」と言われたり、サークル同期から「灘のやつと開成の奴より男子校男子校してる」と言われたりするが、れっきとした共学公立高校出身なのである。たまにはイキらせろ。俺だって高校まではチートだったんや。

 

さて、時は3月くらいまで流れる。

「あの娘可愛かったよな〜」と思い返したりしながら生活していたので、思い立ってLに「Mの連絡先を教えてください」と頼んだのである。この頃の積極性を取り戻したい。

結果、OKが出た。すっごーい!

といっても直接会わないことにはどうしようもないので、東京で会うことにした。予定調整の結果、4月半ばなら地元を出るし留学前だし…でちょうどよかったので3人で飯を食うことになったのである。

 

新宿駅集合。

人生初デート、できる限りのお洒落をしてきたが、緊張で脇汗がすごいのでトイレにこもって摩擦熱で汗のシミを乾かすなどして待っていた。「サイゼ以外ならどこでもいい」とのことだったので全力で食べログをサーチしていたら、「胃に優しいもの」とオーダーが入ったので全ラーメン店を却下した結果、とあるスープ屋が残った。新宿駅から歩いて15分くらいで、悪くない。胃にも優しそうだ。行ってみようと誘ったらOKが出た。我ながら順調である。

 

しかし、この時はまだあんな事になるなんて予想もしなかった…

 

(後編へ続く)